鏡餅

魂を写し、命を繋ぐ「鏡餅」のしきたり

鏡餅は、単なるお正月の飾りではありません。新年に「年神様」をお迎えし、その年の家族の幸福を授かるための依り代(よりしろ)となる、最も神聖なお供え物です。

鏡餅

その名の由来は、古来の儀式に欠かせなかった「八咫鏡(やたのかがみ)」にあります。丸い餅の形は鏡を模しており、同時に私たちの命の根源である「魂(心臓)」をも表していると言い伝えられてきました。大小二つの餅を重ねる姿は、太陽と月、あるいは「陰」と「陽」を象徴しており、円満に年を重ねていくことへの願いが込められています。

神様に捧げた餅を、後日「鏡開き」として家族で分け合って食べる文化は、神様との絆を深め、その生命力を体内に取り入れるという信仰の名残なのです。

鏡餅を飾るメリット – 歳神様の「魂」を宿し、1年の活力をいただく

鏡餅は単なるお供え物ではなく、新年の神様である「歳神様」が滞在するための依り代(神様が宿る場所)です。飾ることには次のような素晴らしいメリットがあります。

円満な家庭と繁栄を願う
丸い餅が二つ重なる姿は、円満に年を重ねる「夫婦円満」や、円満に物事が進む「円満解決」の象徴です。
また、橙(だいだい)は「代々栄える」など、飾り一つひとつに家族の繁栄を願うポジティブなメッセージが込められており、飾るだけで家の中が明るい希望に包まれます。

家族の「生きる力」を更新する
鏡餅は歳神様の魂が宿る「御神体」とみなされます。
松の内が終わったあとに鏡開きをして食べることで、神様からのパワー(御魂:おみたま)を家族全員で体内に取り込み、新しい1年を元気に過ごす活力を得ることができます。

鏡餅の飾りに込められた意味

鏡餅を彩る縁起物には、一つひとつに家族の安泰を願う深い意味が託されています。

だいだい
実が熟しても木から落ちにくく、数年にわたって枝に留まる性質から「家系が代々続く」という願いが込められています。春になると一度黄色くなった実が再び青くなるため「回青橙(かいせいとう)」とも呼ばれる、生命力の象徴です。

裏白うらじろ
古い歴史を持つシダの一種で、長寿を祝うとともに、葉の裏が白いことから「裏表のない清浄な心」を表しています。

ゆずり葉
新しい葉が成長してから古い葉が落ちるため、親から子へ、家系を絶やさず引き継いでいく「譲り合い」の精神を象徴しています。

昆布
「よろこぶ」の語呂合わせはもちろん、古名は「広布(ひろめ)」と呼ばれ、喜びが広がる、あるいは子孫が広がるという願いが込められています。

紙垂しで
聖域を示す四手(しで)は、雷の形を模しており、邪気を払うとともに、豊作をもたらす雨を象徴する神聖な印です。

神様を敬う鏡餅の供え方

鏡餅を飾る際は、直接置くのではなく、三方(さんぽう)と呼ばれる器や、お盆、懐紙などを敷くのが理想的です。

正式には、三方の上に四方紅(しほうべに)や半紙を敷き、その上に紙垂、裏白、譲り葉を重ね、どっしりと二段の餅を据えます。仕上げに橙や昆布、干し柿をあしらい、周囲に海の幸や山の幸を添えて、一年の恵みに感謝を捧げます。

飾る場所は神棚や床の間が最良とされますが、現代の住まいでは、家族が集まるリビングの少し高い位置など、見下ろさない場所にお供えするのが良いでしょう。

方角はその年の恵方、あるいは日の出の方角である東、陽の光が注ぐ南を向くように設えます。

歳神様を見送る「鏡開き」の刻

お正月を共に過ごした年神様をお見送りし、お供えしていた鏡餅を下ろすのが「鏡開き」です。一般的には1月11日に行われますが、地域によっては15日や20日に行われることもあります。

この際、「切る」という言葉は別れや切腹を連想させ縁起が悪いため、手や木槌で「開く」と表現します。硬くなったお餅を小さく割り、お雑煮やお汁粉にして家族でいただくことで、神様からの祝福を体の中に分かち合い、新しい一年を健やかに踏み出す力が与えられるのです。