田の神様とは
田の神は、稲作の豊凶を見守り、豊穣をもたらすと信じられている神様です。地域によって様々な名前で呼ばれており、その多面的な性格が特徴的です。
呼び名と性格
- 別名: 作神、農神、百姓神、野神
- 地域別呼称:
- 東北地方: 農神(のうがみ)
- 関東・中部地方: 作神(さくがみ)
- 近畿地方: 野神(のがみ)・作り神
- 神格: 穀霊神・水神・守護神の諸神の性格を併せ持つ
田の神の信仰体系
山の神との関係(季節的変化)
田の神信仰の根幹をなすのが、山の神との密接な関係です。
- 冬(秋〜春): 山の神として山に宿る
- 春: 山から里に降りてきて田の神となり、農作業を見守る
- 秋: 収穫後、再び山の神となって山に戻る
この循環は、日本の農業サイクルと自然の季節変化に深く根ざした信仰です。
祖霊神としての性格
里に住む人々にとって田の神は祖霊神でもあり、先祖の霊が農業を見守ってくれるという信仰もあります。
田の神の由来
田の神の起源については諸説ありますが、以下のような説が存在します。
- 音韻説: 「五月蝿をはらう」「三把の苗」などの音から派生
- 神数説: 「三柱の歳神」や「三度神」を祀ることを指す
- 季節神説: 田植えの季節に現れて作業を見守り、終わると去っていく神
古くから、田の神は農作業の重要な節目に現れる存在として認識されていました。
地域による田の神信仰
全国共通の特徴
田の神信仰は日本全国に見られますが、地域によって様々な特色があります。
南九州の特殊性:田の神石像
最大の特徴: 石に刻んで祀る習俗は、南九州(特に旧薩摩藩領の鹿児島県から宮崎県南西部)だけに見られる独特の文化です。
田の神さぁの特徴
- 愛称: 地元の人たちが親しみを込めて「田の神さぁ」と呼ぶ
- 設置場所: 各地区で田んぼが見渡せる場所に置かれる
- 起源: 江戸時代中期頃(18世紀初め)に始まる薩摩藩独特の文化
- 現存数: 約2,000体が現存
田の神像の種類と歴史
- 地蔵型(仏像型): 最も古い形式
- 神官型(神像型): 衣冠束帯の神職の姿
- 農民型: 最も多い型で、頭にシキ(藁製の編み物)をかぶった農民の姿
最古の田の神像:
- 年号が判明する最古: 宝永2年(1705年)作の「紫尾の田の神」(鹿児島県さつま町)
- 現存最古: 正保元年(1644年)の銘を持つ石像(鹿児島県霧島市)
田の神にまつわる年中行事
主要な神事
田の神様をもてなす神事は年に複数回行われ、地域により時期や内容が異なります。
鹿児島・宮崎地方
- 12月5日: 収穫後に田の神様を家に招いて収穫に感謝
- 2月9日: 田の耕作前に豊作を祈願して神様を田へ送り出す
東北・北陸地方
- 3月16日: 農神おろし(田の神迎え)- 山の神様をお迎えする
- 11月23日: 田の神上げ – 一年間の感謝を込めて神様を山へ送る
十六団子の行事
3月16日と11月16日に行われる重要な行事です。
- 3月16日「十六団子の日」: 山の神様をお迎えして豊作を願う
- 11月16日: 田の神が山に帰る日のお見送り
水口祭
春耕に先立って迎えられた田の神を、苗代の播種の際に祭る行事です。地域により様々な形態があります。
- 宮城県: 八重桜の枝や焼米を入れた幣束を立てる
- 神奈川県: 木の枝を箒のように束ねる
アエノコト(石川県能登地方)
石川県能登地方の代表的な田の神祭りで、「田の神様、お湯の加減はいかがですか」等と話しかけ、田の神が実在するかのように振る舞う独特の行事です。
田の神様へのお供え物
基本的なお供えの種類
神様へのお供えは大きく3種類に分けられます。
- 神饌(しんせん): 食べ物
- 幣帛(へいはく): 衣料・宝物・金銭
- 奉納物: 建造物(社殿・鳥居・灯篭)
神饌の基本
- 基本食材: 米、酒、魚、海菜、野菜、果実、塩・水
- 選択基準: 新鮮・旬・初物・地物が基本
具体的なお供え方法
- 使用する道具: お膳や箕(み)
- 設置場所: 神棚、田んぼの水の取口、畔など
- お供え物: おむすび、お神酒、苗など
地域や家によって内容は異なりますが、感謝の気持ちと豊作への願いを込めて丁寧にお供えします。
田の神信仰の意義
田の神信仰は単なる豊作祈願を超えて、以下のような深い意味を持っています。
- 自然との共生: 季節の変化と農業サイクルの調和
- 祖先崇拝: 祖霊神としての性格による先祖とのつながり
- 共同体の結束: 地域全体で行う祭祀による絆の強化
- 文化の継承: 地域固有の伝統文化の保持と継承
田の神の歴史は、そのまま田の歴史であり、日本の農業発展史と密接に関わる重要な文化遺産として、現代でも大切に継承されています。特に南九州地域では、田の神さぁが地域の文化的アイデンティティとして重要な役割を果たし続けています。
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